見えないから、
理解されなかった。

ケガや病気で脳が傷つき、考えたり覚えたりする機能がうまく働かなくなる——それが高次脳機能障害です。日本には約23万人いると考えられています。
注意が続かない。感情をうまく調整できない。しかし、見た目では分かりません。だから「やる気がない」「性格が変わった」と誤解され、学校でも職場でも人間関係でもつまずいてきました。
2025年12月18日、この障害に正面から向き合う法律が、議員立法で成立しました。

23万人
推定される当事者数
4分野
医療・福祉・学校・職場
47都道府県
支援センター設置の対象
議員立法
国会議員による提出

2025年12月18日、「高次脳機能障害者支援法案」が成立しました。これは内閣が出した法案ではなく、国会議員が自ら作って提出した「議員立法」です。

チームみらいはこの法案に「賛成」の立場を表明しました。

この法律は、予算規模で言えば大きくありません。しかし、これまで制度の隙間に落ちてきた人たちを、正面から制度の対象に位置づけるという点で、極めて重要な意味を持ちます。

この記事でわかること

高次脳機能障害とは何か/なぜ「見えない障害」と呼ばれるのか/約23万人という規模/なぜこれまで支援が届かなかったのか/医療・福祉・学校・職場をつなぐ「切れ目ない支援」の設計/都道府県の支援センターと地域協議会/企業に求められる配慮/議員立法という成立の経緯/条文の「できる」と「努める」の違い/意見が分かれる2つの論点/チームみらいが賛成した理由/よくある質問

まず結論:この法案は何を決めたのか

📋 法案データ
正式名称高次脳機能障害者支援法案
分野医療福祉
法案の種類議員立法(国会議員が提出した法案)
成立日2025年12月18日
対象高次脳機能障害がある人(日本に約23万人と推定)
目的働いたり学校に行ったりして社会に参加することを支援する
医療・福祉・学校・職場の連携支援センター地域協議会地域間格差の是正
ひとことで言うと高次脳機能障害がある人を支えるための法律
チームみらいの賛否✓ 賛成

審議のステータス

法案提出
衆議院審議
参議院審議
法案成立

出典:みらい議会(gikai.team-mir.ai)/衆議院「高次脳機能障害者支援法案要綱」

高次脳機能障害とは何か

【定義】
みらい議会の説明です。「高次脳機能障害は、ケガや病気で脳が傷つき、考えたり覚えたりする機能がうまく働かなくなる障害です。注意が続かない、感情をうまく調整できないなどの困りごとが起きます。」

原因はさまざまです。交通事故による頭部外傷、脳卒中(脳梗塞・脳出血)、脳炎、低酸素脳症——誰にでも、ある日突然起こりうるものです。

そして、身体の麻痺を伴わないことも多くあります。歩けるし、話せるし、日常会話も成立する。だから周囲は「治った」と判断します。

しかし、本人の中では別のことが起きています。
🧩
注意が続かない

作業に集中できない。話しかけられると前にやっていたことを忘れる。複数のことを同時に処理できない。

📝
覚えられない

新しいことが記憶に残らない。約束、指示、手順が抜け落ちる。メモを取ったこと自体を忘れることもあります。

🌊
感情を調整できない

些細なことで怒りが爆発する、あるいは何にも反応しなくなる。本人の意思とは無関係に起こります。

🗺️
段取りが組めない

計画を立てて順に実行することが難しい。始められない、途中で止まる、優先順位がつけられない。

※症状の現れ方は損傷部位や程度により大きく異なります。上記は代表的な困りごとの例です。

日本国内の推定される当事者数
約23万人
みらい議会の記述:「日本には、高次脳機能障害を持つ人は約23万人いると考えられています。」

なぜ「見えない障害」なのか

👀 見える障害の場合

車いす、白杖、義肢——周囲は一目で状況を理解できます。

・段差があれば手を貸す
・声をかけるタイミングを配慮する
・時間がかかることを前提にする

「配慮が必要な人だ」という前提が、自動的に共有されます。

🫥 高次脳機能障害の場合

みらい議会の記述:「見た目では分かりにくいため、学校や仕事、人との関係で問題が出やすいです。」

・同じミスを繰り返す → 「やる気がない」
・急に怒り出す → 「性格が変わった」
・約束を忘れる → 「不誠実だ」

障害ではなく、人格の問題として受け取られてしまいます。

この「誤解」が、二次的な被害を生みます。

① 職場を失う——「仕事ができない人」として評価され、退職に追い込まれる。

② 人間関係を失う——家族や友人が「変わってしまった」と感じ、距離ができる。

③ 自信を失う——本人も「なぜできないのか」が分からず、自責的になる。二次的にうつ状態を招くこともあります。

④ 支援につながらない——診断を受けていなければ、福祉サービスの対象にすらなりません。

みらい議会が挙げるこの法律の必要性の1つ目は、まさにここです。「外見からは分かりづらく、周囲の理解も不十分なため、生活の様々な場面で適切な配慮が得られない場合があります。このようなことをなくしていかなければなりません。」

この法律が必要な、3つの理由

理由 1

障害に対する理解が不十分

外見からは分かりづらく、周囲の理解も不十分なため、生活の様々な場面で適切な配慮が得られない場合があります。このようなことをなくしていかなければなりません。

理由 2

専門的な支援が必要

切れ目のない専門的な支援が必要とされる障害ですから、それに対応できる人や体制を確保しなければなりません。

理由 3

地域間格差

現在でも支援する拠点は全国にあります。しかし住んでいる地域によって支援の充実度に差があるとも言われていますから、これをなくしていかなければなりません。

「切れ目のない支援」が難しい理由

❌ これまで起きていたこと
支援が、分野ごとに分断されていました。

急性期の病院で命が救われる
引き継ぎが途切れる
リハビリを受ける
退院したら支援が終わる
自宅に戻る
福祉につながらない
復職・復学を試みる
職場も学校も障害を知らない
つまずく
✅ この法律が目指す姿
「医療、福祉の現場、学校、職場など高次脳機能障害を持つ人と関わる様々な人や団体と協力しながら、どこに住んでいても、切れ目ない支援が受けられることを目指しています。」

分野をまたいで情報が引き継がれる
→ 学校や職場が障害を理解した上で受け入れる
→ 相談できる場所がどの都道府県にもある
→ 家族も支援の対象になる
🔗 この法律が結びつける4つの場
🏥
医療

診断とリハビリ。ここで終わらせないことが起点です。

🤝
福祉

地域で自立して生活できるように支援を進めます。

🏫
学校

障害を理解し支える体制を整えます。

💼
職場

仕事に就き、続けられるよう支援を進めます。

※あわせて「家族の支援や相談支援なども含めて考えます」とされています。

この法律の5つのポイント

POINT 1

支援をまとめた仕組み

この法律は、支援全体をまとめて提示するものです。関わる様々な人や団体と協力しながら、どこに住んでいても、切れ目ない支援が受けられることを目指します。

POINT 2

国や自治体、会社の役割

国や自治体は、適切に支援策を考え、実行します。そして会社は、職場での配慮に努めます。

POINT 3

具体的な支援策

地域で自立して生活できるように支援。学校では障害を理解し支える体制を整備。仕事に就き続けられるよう支援。家族の支援や相談支援も含めます。

POINT 4

支援センター

都道府県は、支援センターを作ることができます。相談や情報提供の中心となる場所です。

POINT 5

地域で話し合う場(地域協議会)

都道府県は、病院、福祉、学校、仕事の関係者が集まる場を作るよう努めます。支援の方針を話し合い、連携して助けられるようにします。

条文の「できる」「努める」は、何を意味するのか

ここは、法律を読むうえで最も重要な、しかし見落とされやすいポイントです。

【法律の言葉には、強さの段階がある】
同じ「支援します」という内容でも、条文の書き方によって拘束力がまったく違います。

この法律のポイントを読み返すと、表現が使い分けられていることが分かります。
条文の表現 強さ この法律での例と意味
「〜します」
(義務)
強い 「国や自治体は、適切に支援策を考え、実行します。」——国と自治体には、支援策を検討し実施する責務があります。
「〜することができる」
(できる規定)
中間 「都道府県は、支援センターを作ることができます。」——作る権限は与えられますが、作らなくても違法ではありません。設置するかどうかは各都道府県の判断です。
「〜するよう努める」
(努力義務)
弱い 「都道府県は、関係者が集まる場を作るよう努めます。」「会社は、職場での配慮に努めます。」——努力を求めるにとどまり、罰則はありません。

※みらい議会の解説文に現れる表現をもとに整理したものです。正確な条文の文言は衆議院の法案要綱をご確認ください。

これは、この法律の限界を示しています。

支援センターは「作ることができる」。地域協議会は「作るよう努める」。企業の配慮は「努める」

つまり、この法律は「作れ」とは命じていません。したがって——この法律ができただけでは、地域間格差はなくなりません。熱心な都道府県は設置し、そうでない都道府県は設置しない、という結果もありえます。

【では、この法律は無意味なのか】
いいえ。「できる規定」にも、決定的な意味があります。

法的根拠ができる——予算をつける根拠、職員を配置する根拠が生まれます。これまでは「なぜこの事業をやるのか」の説明から始める必要がありました
比較の対象になる——「隣の県は設置したのに、うちはなぜ設置しないのか」という問いが成立します
当事者が要求できる——法律に書かれていることは、住民が行政に求める根拠になります

努力義務は、ゼロと100の間にある「1」です。そして、1があるかないかは決定的に違います。

議員立法という成立の経緯

なぜ「議員立法」であることが重要なのか

日本で成立する法律の多くは「閣法」——内閣(省庁)が作って国会に提出するものです。みらい議会も「掲載法案は主に、内閣提出法案(閣法)を対象としております」と記しています。

この法案は、その例外です。国会議員が自ら作り、提出しました。

【議員立法が生まれる場面】
・省庁の所管がまたがり、どこも主体的に動きにくいテーマ
当事者団体が長く働きかけてきた課題
・政治的に党派を超えた合意が形成しやすいテーマ

高次脳機能障害は、まさに「所管がまたがる」典型です。
・医療は厚生労働省
・学校は文部科学省
・雇用は厚生労働省(ただし所管部局が異なる)
・地域の体制は都道府県

どの省庁も「うちだけの問題ではない」という状態が、支援の分断を生んでいました。この構造を横断的に束ねるには、省庁の側からではなく、政治の側から法律を作る必要があったのです。

そして、議員立法が成立したという事実は、この課題に党派を超えた合意があったことを意味します。

意見が分かれる2つの論点

論点 👍 期待される効果 ☝️ 注意が必要な点
① 全国の支援をそろえる
vs
自治体の負担
地域の差が小さくなります。 支援センターや協議会を設置するために自治体職員のお仕事が増える可能性があります。
② 仕事を進める支援
vs
会社の理解
障害を持つ人が仕事を見つけやすく、そして続けやすくなります。 会社に理解を広げる工夫が必要です。

出典:みらい議会「意見がわかれるところ」の記述を原文どおり整理。

論点①:自治体の負担をどう軽くするか

これは、現実的で無視できない懸念です。

支援センターの設置、地域協議会の運営、関係機関との調整——すべて人手を要します。そして自治体の人員は、すでに限界に近い状況です。

「法律ができたから、あとは自治体でやってください」では、機能しません。とくに人口の少ない県では、専門人材の確保そのものが困難です。

【現実的な解決の方向】
既存の資源を活用する——みらい議会も「現在でも、高次脳機能障害がある人を支援する拠点が全国にあります」と記しています。ゼロから作るのではなく、既存の拠点を法的に位置づけ直すことで負担を抑えられます

広域での連携——すべての都道府県が単独で専門人材を抱えるのではなく、オンラインでの専門相談を共有する設計が考えられます

デジタルによる情報連携——医療・福祉・学校・職場の間で情報を引き継ぐ作業は、紙と会議で行えば膨大な手間になります。本人の同意を前提とした情報連携の仕組みがあれば、負担は大幅に減ります

チームみらいが技術による行政効率化を掲げてきたことは、この課題と直結します。「人を増やす」以外の答えを示せるかどうかが問われます。

論点②:企業の理解をどう広げるか

⚠️ 「配慮に努める」の限界
企業に求められるのは努力義務です。罰則はありません。

そして、企業側にも切実な事情があります。
何をすればよいか分からない
・配慮の方法が人によって異なる
・現場の管理職に知識がない
・小規模な会社ほど余力がない

悪意ではなく、無知が排除を生みます。
✅ 必要なのは「具体化」
「会社に理解を広げる工夫が必要です。」

抽象的な啓発ではなく、具体的な手順が要ります。
指示は口頭でなく書面で
一度に複数の作業を渡さない
作業の手順を可視化する
静かな作業環境を用意する

これらの多くは、コストがほとんどかかりません。そして——障害の有無にかかわらず、全員の働きやすさを改善します。
配慮は「特別扱い」ではない

高次脳機能障害への配慮として挙げられる工夫——指示を書面にする、一度に渡す作業を絞る、手順を可視化する、集中できる環境を用意する——を並べてみると、あることに気づきます。

これらはすべて、誰にとっても働きやすい職場の条件です。

口頭の指示だけで仕事が回っている職場は、誰にとってもミスが起きやすい。手順が属人化している職場は、誰が抜けても回らなくなる。

つまり、高次脳機能障害への配慮は、職場の業務設計そのものを改善する契機になります。

この視点を持てるかどうかで、企業にとっての意味がまったく変わります。「一部の人のためのコスト」ではなく、「全体の生産性を高める投資」として捉えられるからです。

チームみらいはなぜ「賛成」を選んだのか

みらい議会における立場
✓ 賛成

チームみらいは、この高次脳機能障害者支援法案に賛成の立場を表明しました。約23万人が、見た目で分からないという理由だけで理解されず、制度の隙間に落ちてきた——この状態を法律で正面から位置づけることに、反対する理由はありません。同時に、支援センターが「作ることができる」という規定にとどまる以上、実際に地域間格差が縮まったかを検証し続ける必要があります。

① 制度の隙間を埋める

所管が省庁をまたぐために、どこも主体的に動けなかった領域です。横断的な法律を作ること自体に価値があります。

② 「見えない困難」を可視化する

データで実態を把握し、政策に反映する——約23万人という規模を前提に制度を設計することは、同党の基本姿勢と一致します。

③ 働き続けられる社会へ

働ける人が働けなくなることは、本人にとっても社会にとっても損失です。就労継続の支援は、経済政策でもあります。

賛成したうえで、追い続けるべきこと

① 支援センターは、いくつの都道府県に設置されたか
「作ることができる」という規定である以上、設置状況にばらつきが出る可能性があります。47都道府県のうち何県が設置したか——この数字が公開され、追跡されることが必要です。

② 地域協議会は、実際に機能しているか
会議体は、作るだけなら簡単です。問題は「年に何回開かれ、何が決まり、何が変わったか」です。形式的な設置で終わっていないかの検証が求められます。

③ 就労の継続率は改善したか
最終的な成果指標は、当事者が実際に働き続けられているかです。復職率、就労継続期間、離職理由——これらのデータなしに、法律の効果は測れません。

④ 自治体の負担は許容範囲か
論点として挙げられた「自治体職員のお仕事が増える可能性」が現実になっていないか。負担が過大なら、広域連携やデジタル化で解決策を示す必要があります。

この法律で、誰の何が変わるのか

🧠
高次脳機能障害がある人

助けを受けやすくなります。医療・福祉・学校・職場が連携し、どこに住んでいても切れ目ない支援を受けられることを目指す仕組みができました。

👪
家族

相談や情報を得やすくなります。都道府県の支援センターが相談・情報提供の中心となり、家族の支援や相談支援も法律上の対象に含まれます。

🏛️
自治体

支援をまとめる役割がはっきりします。国や自治体は適切に支援策を考え実行する立場に。都道府県は支援センターを設置でき、地域協議会の設置に努めます。

🏢
会社

働き方への配慮が求められます。職場での配慮に努めることが法律上の要請になります(努力義務)。理解を広げるための工夫が必要とされています。

よくある質問

高次脳機能障害とは、どんな障害ですか?
「ケガや病気で脳が傷つき、考えたり覚えたりする機能がうまく働かなくなる障害」です。注意が続かない、感情をうまく調整できないなどの困りごとが起きます。

原因は交通事故による頭部外傷、脳卒中(脳梗塞・脳出血)、脳炎、低酸素脳症などさまざまで、誰にでもある日突然起こりうるものです。

身体の麻痺を伴わないことも多く、歩けるし話せるため、周囲は「治った」と判断しがちです。しかし本人の中では、記憶・注意・段取り・感情の調整といった機能に困難が生じています。
なぜ「見えない障害」と言われるのですか?
みらい議会の記述です。「見た目では分かりにくいため、学校や仕事、人との関係で問題が出やすいです。」

車いすや白杖のような外見上の手がかりがないため、周囲は配慮の必要性に気づけません。その結果——

・同じミスを繰り返す → 「やる気がない」
・急に怒り出す → 「性格が変わった」
・約束を忘れる → 「不誠実だ」

障害ではなく、人格の問題として受け取られてしまうのです。これが職場や人間関係の喪失、自信の低下といった二次的な被害を生みます。
日本にどれくらいの人がいるのですか?
約23万人と考えられています。

ただしこれは推定値です。診断を受けていない人も少なくないと考えられ、実態はより多い可能性があります。診断につながらなければ福祉サービスの対象にすらならないため、「気づかれていない当事者」の存在自体が課題です。
この法律で、具体的に何が変わるのですか?
5つの柱があります。

① 支援をまとめた仕組み——医療・福祉・学校・職場が協力し、どこに住んでいても切れ目ない支援を受けられることを目指します。
② 国・自治体・会社の役割——国と自治体は支援策を考え実行し、会社は職場での配慮に努めます。
③ 具体的な支援策——地域生活、学校、仕事、家族支援、相談支援。
④ 支援センター——都道府県が設置でき、相談と情報提供の中心になります。
⑤ 地域協議会——病院・福祉・学校・仕事の関係者が集まり、支援方針を話し合う場を作るよう努めます。
「支援センターを作ることができます」——必ず作られるわけではないのですか?
はい。ここは重要な点です。

法律の言葉には強さの段階があります。「〜します」(義務)「〜することができる」(できる規定)「〜するよう努める」(努力義務)——この順に拘束力が弱くなります。

支援センターは「作ることができる」、地域協議会は「作るよう努める」、企業の配慮は「努める」です。つまり、作らなくても違法ではありません。

ただし「できる規定」にも決定的な意味があります。予算や職員配置の法的根拠ができ、「隣の県は設置したのになぜうちは」という問いが成立し、住民が行政に求める根拠になります。ゼロと1の差は決定的です。
「議員立法」とは何ですか?なぜ重要なのですか?
日本で成立する法律の多くは「閣法」——内閣(省庁)が作って提出するものです。この法案は例外で、国会議員が自ら作って提出しました。

高次脳機能障害は所管がまたがる典型です。医療と雇用は厚生労働省、学校は文部科学省、地域の体制は都道府県。どの省庁も「うちだけの問題ではない」という状態が、支援の分断を生んでいました。

この構造を横断的に束ねるには、省庁の側からではなく政治の側から法律を作る必要があったのです。そして議員立法が成立したことは、党派を超えた合意があったことを意味します。
自治体の負担が増えませんか?
みらい議会も論点として挙げています。「支援センターや協議会を設置するために自治体職員のお仕事が増える可能性があります。」これは現実的で無視できない懸念です。

現実的な解決の方向は3つ考えられます。

① 既存の資源を活用する——「現在でも支援する拠点が全国にあります」とされており、ゼロから作るのではなく既存拠点を法的に位置づけ直せば負担を抑えられます。
② 広域での連携——すべての県が単独で専門人材を抱えるのではなく、オンラインでの専門相談を共有する設計。
③ デジタルによる情報連携——本人の同意を前提とした情報連携の仕組みがあれば、引き継ぎの手間は大幅に減ります。
会社は、具体的に何をすればよいのですか?
みらい議会は「会社に理解を広げる工夫が必要です」と論点に挙げています。抽象的な啓発ではなく、具体的な手順が必要です。

たとえば——指示は口頭でなく書面で伝える/一度に複数の作業を渡さない/作業の手順を可視化する/静かな作業環境を用意するといった工夫です。

注目すべきは、これらの多くはコストがほとんどかからず、しかも障害の有無にかかわらず全員の働きやすさを改善するという点です。

口頭の指示だけで回っている職場は誰にとってもミスが起きやすく、手順が属人化した職場は誰が抜けても回りません。配慮は「特別扱い」ではなく、業務設計そのものの改善です。

まとめ:見えなかったものを、制度の対象にする

約23万人。日本にいる高次脳機能障害の当事者の推定数です。

その人たちは、歩けます。話せます。日常会話もできます。だから周囲は、困難があることに気づけませんでした。そして、気づかれないまま——「やる気がない」「性格が変わった」「不誠実だ」と評価され、仕事を失い、関係を失い、自信を失ってきました。

この記事のまとめ

✅ 高次脳機能障害はケガや病気で脳が傷つき、考えたり覚えたりする機能がうまく働かなくなる障害
✅ 日本には約23万人いると考えられている
見た目では分かりにくいため、学校・仕事・人間関係で問題が出やすい
✅ この法律は医療・福祉・学校・職場をつなぎ、切れ目ない支援を目指す
都道府県は支援センターを設置でき地域協議会の設置に努める
会社は職場での配慮に努める(努力義務)
家族の支援や相談支援も対象に含まれる
議員立法として成立——所管が省庁をまたぐ課題を、政治の側から束ねた
✅ 論点は「自治体の負担」と「会社の理解をどう広げるか」
✅ チームみらいは賛成。「制度の隙間を埋める」「見えない困難を可視化する」「働き続けられる社会へ」という3つの論理に基づく

この法律は、その状況を変える第一歩です。

ただし、率直に言えば、この法律だけでは何も自動的には変わりません。支援センターは「作ることができる」、地域協議会は「作るよう努める」、企業の配慮は「努める」——いずれも義務ではありません。

それでも、この法律には決定的な意味があります。これまで「どこの担当でもなかった」課題に、初めて名前と法的な位置づけが与えられたからです。

予算をつける根拠ができました。職員を配置する根拠ができました。「隣の県は設置したのに、なぜうちは設置しないのか」と問う根拠ができました。そして当事者と家族が、行政に対して支援を求める根拠ができました。

これから問われるのは、実行です。47都道府県のうち、いくつが支援センターを設置するのか。地域協議会は年に何回開かれ、何を変えるのか。そして、当事者は実際に働き続けられるようになるのか。

法律ができた日は、ゴールではなく、検証が始まる日です。

参考・出典

※本記事はチームみらいの非公式応援サイトによる解説です。法案の正確な内容は必ず一次資料をご確認ください。当事者数や症状の説明はみらい議会の掲載情報に基づいています。症状の現れ方は損傷部位や程度により大きく異なり、記事中の例はあくまで代表的なものです。条文の強さに関する整理は、みらい議会の解説文に現れる表現をもとにしたものであり、正確な文言は法案要綱をご確認ください。診断や支援については、お住まいの自治体の窓口や医療機関にご相談ください。なお、みらい議会側の当該ページの内容は今後更新される可能性があります。