収入によって、
行ける学校が変わっていた。
高校の授業料を国が支援する就学支援金。これまでは保護者の年収が約910万円以上だと、支援を受けられませんでした。今回の改正で、その所得制限がなくなります。さらに私立高校への支援は年39万6,000円から45万7,200円へ引き上げられます。ただし——「無償化」という言葉には、注意が必要です。対象は授業料だけ。そして、この改正には約4,000億円という規模の追加予算がかかります。
撤廃される所得制限
私立への支援上限
必要な追加予算
都道府県の費用負担
2026年2月27日、「高等学校等就学支援金の支給に関する法律の一部を改正する法律案」が成立しました。いわゆる「高校無償化」を実現するための法改正です。
チームみらいはこの法案に「賛成」の立場を表明しました。
この法案は、多くの家庭に直接お金の面で影響します。同時に、「限られた財源を誰に使うべきか」という、社会保障の根本問題を含んでいます。本記事では、恩恵と懸念の両方を正確に整理します。
所得制限910万円とは何だったのか/支援額はいくら増えるのか/「無償化」で無償にならないもの/都道府県の4分の1負担/約4,000億円という財源/大阪府の先行事例で何が起きたか/意見が分かれる3つの論点/チームみらいが賛成した理由/よくある質問
まず結論:この法案は何を決めたのか
審議のステータス
出典:みらい議会(gikai.team-mir.ai)/文部科学省 法律案概要/衆議院 審議経過
910万円という「壁」
「これまでは保護者の年収が約910万円以上だと支援を受けられませんでした」
この改正で、家庭の収入に関係なく支援が届くようになります。
高校の授業料を国が支援する制度です。学校に直接支払われるため、保護者が立て替える必要はありません。
所得制限があったのは、「限られた財源を、必要な家庭に集中させる」という考え方に基づいています。年収が高い家庭は自力で授業料を払えるはずだから、支援は不要——という理屈です。
【なぜ撤廃するのか】
みらい議会が挙げる理由は明快です。「収入によって行ける学校が変わる状況を変えたい」「授業料を社会全体で負担し、希望する学校を選びやすくするための改正です。」
所得制限があると、「支援の対象になるかどうか」で進路が左右されます。とくに私立を選ぶ場合、支援の有無で年間数十万円の差が出ます。それが進路選択を歪めていた、という問題意識です。
支援額は、いくら変わるのか
| 対象 | 改正前 | 改正後 | 増額分 | |
|---|---|---|---|---|
| 私立高校(全日制) 年額の支援上限 |
39万6,000円 | ➡ | 45万7,200円 | +6万1,200円 |
| 年収約910万円以上の世帯 これまで対象外 |
0円(対象外) | ➡ | 支援対象に | 新たに支給 |
出典:みらい議会 法案解説ページ/文部科学省 法律案概要。私立の支援上限は「全国平均授業料の水準」まで引き上げ。
私立高校への支援額を45万7,200円に設定したのは、全国平均の授業料に相当する水準だからです。
この設計には意味があります。平均的な私立高校なら、授業料は実質的にカバーされるということです。つまり「私立か公立か」という選択において、授業料の差がほぼ消えることになります。
ただし、「平均」である以上、平均より高い学校では差額が自己負担になります。みらい議会も「授業料が支援額の上限を超える学校では差額が自己負担になります」と明記しています。
高額な授業料の私立高校では、依然として経済力が問われます。「すべての私立が無償」ではありません。
「無償化」で無償にならないもの
ここは、誤解が最も生じやすい部分です。
みらい議会の説明:「授業料のみが対象で、入学金や教材費などは自己負担のままです。また、授業料が支援額の上限(私立全日制は年額45万7,200円)を超える学校では差額が自己負担になります。」
入学時には、入学金、制服、体操着、指定カバン、教科書、副教材——まとまった出費が集中します。学校によっては数十万円規模になります。
在学中も、修学旅行の積立、部活動の費用、通学定期代、模試代などが継続的にかかります。
「高校無償化」という言葉から想像される「お金がかからない」状態とは、かなり距離があります。
この点を正確に伝えることは、期待と現実のギャップを防ぐうえで重要です。授業料が無償になることは大きな前進ですが、それがすべてではありません。
改正の3つのポイント
収入に関係なく全員が就学支援金を受け取れる
これまでは保護者の年収が約910万円以上だと支援を受けられませんでした。この改正で、家庭の収入に関係なく支援が届くようになります。
私立高校への支援額を全国平均授業料の水準まで引き上げ
私立の全日制高校では、支援の上限が年39万6,000円から年45万7,200円に引き上げられます。ただし対象は授業料だけです。
都道府県も費用の一部を負担する
これまでは国が全額を負担していましたが、改正後は費用の4分の1を都道府県が負担します。
POINT 3:都道府県の4分の1負担が意味すること
❌ これまで:国が全額負担
財源はすべて国。→ 都道府県は負担なしで制度を受け入れられた
→ 一方、都道府県には制度設計への発言権も薄い
→ 国の政策として一律に実施
⚠️ 改正後:都道府県が4分の1
費用の4分の1を都道府県が負担。→ 都道府県の財政に新たな支出が生じる
→ 制度の当事者になることで、公私の高校配置に責任を持つ立場に
→ ただし財政力の弱い県には重い
約4,000億円規模の追加予算のうち、4分の1が都道府県の負担になります。単純計算で1,000億円規模が地方に移ることになります。
都道府県が高校教育の当事者である以上、費用を分担する理屈は成り立ちます。しかし財政力には大きな差があります。豊かな都府県には負担できても、財政の厳しい県には重い。
そして、私立への支援が手厚くなるほど、都道府県の負担も増えるという構造になります。私立進学が増えれば増えるほど、県の支出が増える。これは公立高校の維持と、緊張関係を生みかねません。
大阪府の先行事例——公立の約半数が定員割れ
この法案を評価するうえで、最も重い事実がこれです。
みらい議会の記述:「大阪府の先行実施では公立高校の約半数が定員割れになりました。」
地域で公立高校が減ると、通える学校がなくなる生徒が出る心配があります。
💡 何が起きたのか
私立の授業料が実質無償に→ 公立を選ぶ経済的な理由が薄れる
→ 施設や進学実績で選ばれる私立へ生徒が移動
→ 公立高校が定員割れ
→ 定員割れが続けば統廃合へ
⚠️ その先に起きること
公立高校が減る→ 通学圏内に学校がなくなる地域が出る
→ とくに私立が少ない地方では代替がない
→ 「選択肢が増えた」はずが「選択肢が消える」という逆転
制度の目的は「希望する学校を選びやすくする」ことでした。授業料の壁をなくせば、公立か私立かを純粋に教育内容で選べるようになる——そういう設計です。
しかし実際には、公立高校が経営的に成り立たなくなるという副作用が生じました。公立は定員が埋まらなければ、いずれ統廃合されます。
そして統廃合が進んだ地域では、そもそも通える学校がなくなります。とくに私立高校が少ない地方では、公立が唯一の選択肢です。そこが消えれば、選択どころか進学そのものが困難になります。
みらい議会が「公立高校のセーフティネットは守られるか」を論点に挙げているのは、この構造への警戒です。
意見が分かれる3つの論点
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| ① 支援が本当に必要な家庭に届いているか | 学校を選びやすくなる一方、お金に余裕のある家庭も対象になります。限られた財源を、より困っている家庭に使うべきという意見があります。 |
| ② 財源を長く確保し続けられるか | 所得制限をなくすなどの支援の拡充には約4,000億円規模の追加予算が必要です。2026年度の予算案には計上されていますが、今後も継続して財源確保ができるかどうかが懸念です。 |
| ③ 公立高校のセーフティネットは守られるか | 私立高校を選びやすくなる反面、大阪府の先行実施では公立高校の約半数が定員割れになりました。地域で公立高校が減ると、通える学校がなくなる生徒が出る心配があります。 |
論点①:「普遍主義」か「選別主義」か
この論点は、社会保障の設計思想そのものに関わります。
🎯 選別主義(所得制限あり)
限られた財源を、困っている人に集中させる→ 同じ予算でより手厚い支援ができる
→ 効率的な再分配
しかし:
→ 所得の把握と審査にコストがかかる
→ 境界線の直前で「働き損」が生じる
→ 受給者にスティグマ(負い目)が生まれることも
🌐 普遍主義(所得制限なし)
全員を対象にする→ 審査が不要で事務が簡素
→ 「働き損」が生じない
→ 受給に負い目がない
→ 納税者全体が制度の受益者になり、支持が安定する
しかし:
→ 総額が大きくなる
→ 富裕層にも支援が行く
「お金持ちにまで支援するのはおかしい」——この感覚は自然です。しかし、所得制限には見えにくいコストがあります。
① 審査コスト——全世帯の所得を毎年確認する事務は、決して小さくありません。その費用は支援の総額から差し引かれます。
② 「壁」の弊害——年収910万円の直前で、1円の差が数十万円の支援の有無を分けます。収入が増えると手取りが減るという逆転が生じ、働き方を歪めます。
③ 制度への支持——自分が受益者でない制度を、人は支持し続けません。普遍的な制度のほうが、長期的に維持されやすいという政治的な現実があります。
そして最も本質的なのは——高所得世帯は税金も多く払っているということです。「税を多く払い、支援は受けられない」という構造が続けば、負担への納得が失われます。
論点②:4,000億円という規模
みらい議会は「所得制限をなくすなどの支援の拡充を行うためには約4,000億円規模の追加予算が必要です」と記しています。
これは毎年必要になる金額です。一度きりの支出ではありません。
【継続性が問われる理由】
「2026年度の予算案には計上されていますが、今後も継続して財源確保ができるかどうかが懸念です。」
教育予算は、他の予算と競合します。景気が悪化して税収が落ちたとき、あるいは他分野で緊急の支出が必要になったとき——この4,000億円が守られるかどうかは保証されていません。
そして、いったん始めた支援を削るのは、政治的に極めて困難です。だからこそ、財源の裏づけが問われます。
チームみらいはなぜ「賛成」を選んだのか
チームみらいは、この就学支援金法改正案に賛成の立場を表明しました。教育を最重要政策のひとつに掲げる政党にとって、「収入によって行ける学校が変わる」状況の是正は譲れない方向性です。同時に、公立高校のセーフティネットという論点は、賛成後に厳しく追及すべき課題として残ります。
① 進路が家計で決まらないように
授業料の有無で進学先が変わるのは、子どもの責任ではない要因で人生が制約されるということです。教育の機会均等の基本です。
② 「壁」の弊害をなくす
910万円の直前で数十万円の支援が消える設計は、働き方を歪めます。所得の壁をなくすことは、同党が一貫して主張してきた方向です。
③ 事務コストの削減
全世帯の所得を毎年審査する事務は、それ自体がコストです。普遍的な制度は、行政の簡素化にもつながります。
「所得の壁」への一貫した姿勢
チームみらいは、「年収の壁」の解消を経済政策の柱のひとつとして掲げてきました。配偶者控除の壁、社会保険料の壁——一定の収入を超えると手取りが減るという設計を批判してきたのです。
就学支援金の910万円という所得制限も、同じ構造を持っています。年収が910万円を1円超えただけで、支援が完全に消える。これは典型的な「崖」型の制度です。
対象は授業料だけです。入学金、制服代、教材費は自己負担のまま。そして授業料が45万7,200円を超える学校では差額が自己負担です。
経済的に厳しい家庭にとって、入学時のまとまった出費は依然として大きな障壁です。「授業料が無償でも、入学金が払えないから進学を諦める」という状況は、この改正では解決されません。
所得制限の撤廃は「上を開ける」改正であり、「下を支える」改正ではありません。低所得世帯への追加支援(授業料以外の費用への補助)は、別途必要です。
賛成したうえで、最も重い宿題
大阪府の先行実施で公立高校の約半数が定員割れになったという事実は、この改正の最大のリスクを示しています。
公立高校には、私立にはない役割があります。
・地域に必ず存在する——私立は採算の取れる場所にしかありません
・誰でも受け入れる——選抜の性格が私立とは異なります
・授業料が安い——支援の上限を超える費用が発生しにくい
公立が消えた地域では、進学そのものが困難になります。とくに私立高校が少ない地方では、代替がありません。
この改正に賛成した以上、「公立高校の統廃合が進んだ地域で、通学困難な生徒が出ていないか」を追跡し続ける責任があります。選択肢を増やすはずの政策が、選択肢を消す結果になっていないか。これが最も重い検証項目です。
この改正で、誰の何が変わるのか
新たに対象になる高校生・保護者
年収が高くこれまで対象外だった家庭も支援を受けられます。年収約910万円以上の世帯にとっては、新たに年間数十万円の支援が生じることになります。
私立高校に通う全高校生
全国平均授業料相当まで支援が受けられます。支援上限が39万6,000円から45万7,200円へ。ただし授業料が上限を超える学校では差額が自己負担です。
公立高校
私立への生徒の流出が進む可能性があります。大阪府の先行実施では公立の約半数が定員割れになりました。定員割れが続けば統廃合につながります。
都道府県
費用の4分の1を負担することになります。これまで国が全額負担していた分の一部が地方に移ります。財政力の弱い県ほど負担感が大きくなります。
よくある質問
入学時には入学金、制服、体操着、指定カバン、教科書、副教材などでまとまった出費が集中し、在学中も修学旅行の積立、部活動費、通学定期代などがかかります。「高校無償化」という言葉から想像される状態とは、かなり距離があります。
しかしこの設計には問題もありました。年収910万円を1円超えただけで支援が完全に消える——典型的な「崖」型の制度で、収入が増えると手取りが減るという逆転が生じます。今回の改正で、この壁がなくなります。
一方、所得制限には見えにくいコストもあります。①全世帯の所得を毎年審査する事務コスト、②境界線での「働き損」、③自分が受益者でない制度は支持されにくい——という点です。
また、高所得世帯は税金も多く払っています。「多く払い、支援は受けられない」構造が続けば、負担への納得が失われるという側面もあります。
2026年度の予算案には計上されていますが、今後も継続して財源確保ができるかどうかが懸念されています。景気悪化で税収が落ちたとき、あるいは他分野で緊急の支出が必要になったとき、この予算が守られる保証はありません。
なお、改正後は費用の4分の1を都道府県が負担します(従来は国が全額)。
私立の授業料が実質無償になれば、公立を選ぶ経済的な理由が薄れます。生徒が私立に移り、公立が定員割れし、統廃合へ——という流れです。
公立が消えた地域では、進学そのものが困難になります。とくに私立が少ない地方では代替がありません。選択肢を増やすはずの政策が、選択肢を消す結果になりかねない——ここは継続的な監視が必要です。
ただし「平均」である以上、平均より高い学校では差額が自己負担になります。高額な授業料の私立高校では、依然として経済力が問われます。「すべての私立が無償」ではありません。
都道府県は高校教育の当事者であり、費用を分担する理屈は成り立ちます。ただし財政力には大きな差があり、財政の厳しい県には重い負担です。
さらに構造的な問題として、私立進学が増えるほど都道府県の支出も増えるため、公立高校の維持との緊張関係を生みかねません。
まとめ:壁は消えた。しかし、次の課題が見えている
年収910万円という線引きは、「支援が必要な人」と「必要でない人」を分ける境界でした。合理的に見えるこの設計には、しかし副作用がありました。境界の直前で働き方が歪み、審査に事務コストがかかり、そして「支援を受けられるかどうか」で進路が左右されていたのです。
この改正で、その壁は消えます。すべての高校生が、授業料の支援を受けられるようになります。私立への支援も、全国平均の授業料水準まで引き上げられます。
これは、多くの家庭にとって明確な前進です。
✅ 年収約910万円の所得制限を撤廃し、すべての家庭を支援の対象に
✅ 私立高校(全日制)への支援上限を年39万6,000円 → 45万7,200円(全国平均授業料の水準)
✅ 対象は授業料のみ。入学金・制服代・教材費は自己負担のまま
✅ 授業料が上限を超える学校では差額が自己負担
✅ 費用の4分の1を都道府県が負担(従来は国が全額)
✅ 在校生も要件を満たせば対象
✅ 財源は約4,000億円規模の追加予算が毎年必要
✅ 大阪府の先行実施では公立高校の約半数が定員割れという重い先例
✅ 論点は「支援が必要な家庭に届いているか」「財源の継続性」「公立高校のセーフティネット」
✅ チームみらいは賛成。「進路が家計で決まらないように」「壁の弊害をなくす」「事務コストの削減」という3つの論理に基づく
ただし、忘れてはならないことが2つあります。
ひとつは、「無償化」で無償になるのは授業料だけだということ。入学金も、制服も、教材費も自己負担のままです。経済的に厳しい家庭にとって、入学時のまとまった出費は依然として大きな壁です。この改正は「上を開ける」ものであり、「下を支える」ものではありません。
もうひとつは、大阪府で公立高校の約半数が定員割れしたという事実です。授業料の差が消えれば、公立を選ぶ理由が薄れます。そして公立が統廃合されれば、私立の少ない地域では通える学校がなくなります。
選択肢を増やすはずの政策が、選択肢を消す。この逆転が起きていないかを、これから何年もかけて確かめる必要があります。
参考・出典
- みらい議会「高等学校等就学支援金の支給に関する法律の一部を改正する法律案」
https://gikai.team-mir.ai/bills/f202a892-1a60-4a3a-bfa0-786d126e3703 - 文部科学省「高等学校等就学支援金の支給に関する法律の一部を改正する法律案(概要)」
- 文部科学省「高等学校等就学支援金制度」「高校生等への修学支援」
- 文部科学省「文科省から今国会に提出する2法案閣議決定」
- 衆議院「審議経過」
※本記事はチームみらいの非公式応援サイトによる解説です。法案の正確な内容は必ず一次資料をご確認ください。数値はみらい議会の掲載情報に基づいています。所得制限の「約910万円」は世帯構成等により実際の判定基準が異なります。詳細は文部科学省の資料をご確認ください。なお、みらい議会側の当該ページの内容は今後更新される可能性があります。