発電所は建てられる。
でも、その電気は運べない。
AIが動くたび、データセンターは電気を飲み込みます。半導体工場が一つ建てば、街ひとつ分の電力が消えます。これから日本の電力需要は確実に増えます。ところが日本には、もっと根本的な問題があります。北海道や東北で風力発電を建てても、九州で太陽光を敷き詰めても、その電気を大消費地まで運ぶ「送電線」が足りないのです。作れるのに、届かない。この構造的なボトルネックに、ついに国が手を入れました。
改正のポイント数
影響を受ける関係者
休眠で登録取消の対象に
法案成立
2026年3月24日、「電気事業法の一部を改正する法律案」が成立しました。電気事業法——名前は聞いたことがあっても、中身を説明できる人はほとんどいないでしょう。しかしこの法律は、あなたの家に電気が届くまでのすべてのルールを決めている、生活の根幹をなす法律です。
今回の改正は、ひとことで言えば「送電線と発電所を作るためのお金の道をつくり、太陽光の安全を強化する」ものです。チームみらいはこの法案に「賛成」の立場を明確にしました。
本記事では、なぜ今この改正が必要だったのか、6つの柱の中身は何か、電気代は上がるのか、そしてチームみらいがなぜ賛成を選んだのかを、電力業界の知識ゼロでもわかるように解説します。
日本の送電網が抱える構造問題/改正の6つの柱/AI・データセンターが電力需要をどう変えるか/送電線整備の費用は誰が払うのか/太陽光の架台事故とは何か/意見が分かれる6つの論点/チームみらいが賛成した理由/影響を受ける8つの立場/よくある質問
まず結論:この法案は何を決めたのか
審議のステータス
出典:みらい議会(gikai.team-mir.ai)/衆議院 議案の経過情報
日本の電力が抱える「運べない」という病
電力の議論というと、たいてい「原発か再エネか」という発電の話に終始します。しかし現場の技術者が口を揃えて指摘するのは、もっと地味で、もっと深刻な問題です。作った電気を運ぶ線が足りない。
風力の適地
容量不足 ⚠
最大の消費地
太陽光の適地
容量不足 ⚠
産業集積地
再生可能エネルギーを「作れる場所」と、電気を「使う場所」が地理的に離れている。
その間をつなぐ送電線の容量が足りず、せっかく発電した電気を捨てざるを得ないケースが発生している。
太陽光や風力が発電しすぎたとき、送電線の容量や需給バランスの制約から、発電を強制的に止めることです。せっかく作れる電気を捨てている状態で、事業者にとっては売上の損失、国全体で見ればエネルギーの浪費にあたります。送電線が十分にあれば、余った電気を別の地域へ送って使えるため、この無駄を減らせます。
【用語解説】系統(けいとう)とは
発電所から家庭・工場までを結ぶ、電線・変電所・送電鉄塔などのネットワーク全体のこと。「電力系統」「系統整備」といった形で使われます。道路網にたとえると、発電所が工場、系統が道路、消費者が店舗にあたります。どんなに工場を建てても、道路が細ければ商品は届きません。
なぜ送電線は増えなかったのか
答えはシンプルで、お金がかかりすぎるからです。長距離の送電線を1本引くには数千億円規模の投資が必要で、しかも回収には数十年かかります。一民間企業が単独で背負える案件ではありません。
加えて、送電線は「誰のための投資か」が曖昧という難しさを抱えています。北海道と本州をつなぐ線は、北海道の風力事業者のためでもあり、本州の消費者のためでもあり、国全体のエネルギー安全保障のためでもある。受益者が広く薄く分散するため、「誰が費用を出すのか」で話が止まりがちなのです。
今回の改正は、まさにこの「お金の詰まり」を解消するための制度だと理解すると、全体像がすっきり見えてきます。
改正の6つの柱
広域の送電線を整備する事業者に、お金を貸す
電気を遠くまで届ける送電線が足りていません。国が整備計画を認定した事業者に対し、電気の需給を広く調整する公的な機関が資金を貸し付ける仕組みを作ります。数千億円規模の投資に、公的な資金の道が通ります。
大きな発電所の整備にも、お金を貸す
国の認定を受けた事業者が大規模電源を整備する際にも、資金を貸す仕組みを設けます。あわせて、大型発電所を休止・廃止するときは送配電会社と事前に相談するルールを追加。ある日突然、供給力が消えることを防ぎます。
電力取引で生まれた利益を、送電線整備に回す
地域をまたいだ電力取引で生まれた利益を国に納め、送電線の整備費用にあてます。市場の中で生まれたお金を、市場の土台であるインフラへ再投資する循環をつくる設計です。
活動していない電力会社の登録を取り消せるようにする
正当な理由なく1年以上事業を休んでいる小売電気事業者の登録を、国が取り消せるようにします。実体のない登録が並んでいる状態を整理し、市場の透明性と行政の効率を高めます。
将来の電気・調整用の電気を扱う市場を国が指定・監督
先々の電気を取引する市場(先物的な市場)や、需要と供給のバランスを合わせる調整用の電気を取引する市場について、運営事業者を国が指定して監督する仕組みにします。市場の信頼性を担保するための措置です。
太陽光発電の設備を建てる前に安全をチェック
太陽光パネルを支える土台(架台)などの安全を、専門機関が工事の前に確認するようにします。製品や工事に不具合があったときは、製造会社や施工会社にも原因調査への協力を求められるようになります。
なぜ今、この改正が必要だったのか
理由1:AI・データセンター・半導体で電力需要が反転する
日本の電力需要は、省エネ技術の進歩と人口減少により、長らく減少傾向にありました。ところがこの前提が、いま崩れつつあります。
※みらい議会が示す「AIやデータセンター、半導体工場の新設により電気の使用量が増える見込み」という認識を、需要押し上げ要因の相対的な大きさとして図示したものです。具体的な数値予測ではありません。
生成AIの学習と推論には膨大な計算資源が必要で、それはそのまま電力消費に直結します。半導体工場も同様で、最先端の製造ラインは一つで大規模発電所レベルの電力を必要とします。日本が半導体とAIで再起を図るなら、電力はその大前提です。
理由2:再エネを増やしても、届けられない
すでに述べたとおり、再生可能エネルギーを作れる場所(北海道・東北の風況の良い土地、九州の日照量の多い土地)と、電気を大量に使う場所(首都圏・関西・中部)は、地理的に離れています。
送電線が足りなければ、どれだけ再エネを増やしても出力抑制で捨てるだけになります。「再エネを増やすべきだ」という主張と「送電線を整備すべきだ」という主張は、対立するどころか完全に同じ方向を向いています。
理由3:燃料の海外依存というリスク
海外の紛争によって化石燃料の価格が不安定になっています。日本はエネルギー自給率が極めて低く、燃料価格の変動がそのまま電気代と産業競争力に跳ね返る構造です。国内の電力供給体制を強くすることは、経済安全保障の課題でもあります。
理由4:太陽光の架台事故が起きている
6つ目の柱は、他の5つとは少し性質が違います。太陽光パネルを支える土台(架台)の設計が適切でなく、事故が起きている——という現実への対応です。
❌ これまで
太陽光設備の架台について、工事前の体系的な安全確認の仕組みが十分ではなかった。→ 設計が不適切なまま設置され、強風や豪雨でパネルが飛散・崩落する事故が発生。
→ 事故が起きても、製造会社や施工会社に原因調査への協力を求める法的根拠が弱かった。
✅ これから
専門機関が工事の前に架台などの安全を確認する。→ 危険な設計を、設置前の段階で止められる。
→ 不具合が起きたときは、製造会社・工事会社にも原因調査への協力を求められる。責任の所在を追跡できる。
再生可能エネルギーを推進するからこそ、その安全性への信頼を守らなければなりません。事故が続けば地域の反対が強まり、結果として再エネの拡大そのものが止まります。この規定は、再エネ推進のブレーキではなく、むしろ持続可能性を担保するための措置だと読むべきでしょう。
意見が分かれる6つの論点
みらい議会は、この法案について6つの論点を提示しています。応援サイトだからといって都合の悪い部分を伏せるのではなく、そのまま整理します。
| 論点 | 内容と考え方 |
|---|---|
| ① 送電線の整備費用が電気代に上乗せされないか | 整備が進めば将来の安定供給につながります。しかし、費用がかかることは事実であり、電気料金に上乗せされる可能性があります。ここは正面から向き合うべき論点です。ただし、送電線が不足したまま需要が増えれば、需給逼迫による価格高騰リスクのほうが大きくなります。 |
| ② 休眠事業者の取消ルールは厳しすぎないか | 活動していない会社の整理は、行政の事務を減らすうえで重要です。一方、一時的に休んでいる会社が事業を再開しにくくなる可能性があります。「正当な理由なく」という要件をどう運用するかが鍵になります。 |
| ③ 大きな発電所ばかり優遇されないか | 大型電源を支援することで、電力を確保しやすくなります。一方、地域ごとの小規模発電や、需要側の工夫(デマンドレスポンス等)への投資が後回しになる可能性があります。分散型エネルギーとのバランスが問われます。 |
| ④ 電力取引の利益の使い方が変わる影響 | 地域をまたいだ電力取引の利益は、これまで送電線の整備資金として直接使われていました。今後は国に納めてから使う形に変わります。この変更が、電力を売り買いする事業者の行動に影響しないかが注目されています。 |
| ⑤ 新しい電力市場のルールは十分に決まるのか | 将来の電力取引や需給調整の市場を国が指定・監督することで、安定した運営が期待されます。一方、具体的な基準はこれから決まる部分も多く、制度設計の中身が問われます。 |
| ⑥ 太陽光の安全チェックが事業者の負担にならないか | 工事前の安全確認は事故防止に必要です。しかし、中小規模の施工会社や設置者にとっては手続きや費用が負担になる可能性があります。確認の手続きをどれだけ簡素・迅速にできるかが実務上の焦点です。 |
よく読むと、6つの論点はいずれも「やるべきかどうか」ではなく「どう運用するか」を問うています。送電線を整備すべきでない、という意見はありません。太陽光の安全を確認すべきでない、という意見もありません。争点はすべてコスト配分と手続き設計にあります。
この構造は、法案の賛否を判断するうえで決定的に重要です。反対しても問題は解決せず、単に整備が遅れるだけだからです。
チームみらいはなぜ「賛成」を選んだのか
チームみらいは、この電気事業法改正案に賛成の立場を表明しました。AI・半導体・データセンターを日本の成長戦略の柱に据えるなら、その土台である電力インフラへの投資は避けて通れません。テクノロジー政党にとって、これは自らの主張の前提条件を整える法案でもあります。
① AI立国の前提は電力
データセンターも半導体工場も、電気がなければ動きません。「日本をAIで再起させる」と語るなら、電力インフラへの投資を支持しないという選択肢はありません。
② 再エネは送電線とセット
作れるのに運べない、だから捨てる——この無駄を放置したまま再エネ拡大を語るのは非合理です。送電網への投資は、再エネ政策そのものです。
③ 安全なくして推進なし
架台事故が続けば、地域の信頼を失い再エネ全体が停滞します。事前確認の制度化は、推進のブレーキではなく持続可能性の担保です。
「発電の議論」から「系統の議論」へ
日本のエネルギー論争は、長らく「原発 vs 再エネ」という発電手段の対立軸で語られてきました。この構図は感情的な動員力が強く、選挙では有効です。しかし、それだけでは電力問題は1ミリも解決しません。
チームみらいがこの法案に賛成した背景には、エネルギー問題を「イデオロギーの対立」ではなく「システムの設計問題」として捉える姿勢があります。どの電源を選ぶかという問いの前に、「作った電気をどう運び、どう需給を合わせるか」という工学的な課題が横たわっている。この認識は、エンジニア出身者を多数擁する政党ならではのものです。
最大の論点である「電気代への上乗せ」は、賛成の立場からも軽視できません。送電線の整備費用は、最終的には何らかの形で電力料金に反映されます。
ただし、比較すべきは「整備した場合のコスト」と「整備しなかった場合のコスト」です。送電線が不足したまま需要が増えれば、需給逼迫による電力価格の高騰、出力抑制による再エネの浪費、そして工場やデータセンターの立地が海外へ流れることによる産業の空洞化が起きます。後者のコストのほうが、はるかに大きい可能性が高いのです。
とはいえ「大きな絵で見れば得だから我慢しろ」では、いま電気代に苦しむ家庭は救われません。整備コストの配分ルールを透明にし、低所得世帯への負担軽減策を並行して議論すること——ここが国会に残された宿題です。
この改正で、誰の何が変わるのか
電気を使うすべての人
送電線の整備費用が電気料金に影響する可能性があります。これは正直に受け止めるべき点です。一方で、安定供給が確保されなければ、そもそも電気が使えないリスクや需給逼迫時の価格高騰リスクを負うことになります。
送配電会社
国の認定を受けると送電線の整備資金を借りられるようになります。これまで資金調達の難しさから先送りされてきた広域連系線の整備に、道が開かれます。
大きな発電所を持つ会社
整備の資金を借りられるようになります。一方で、休止・廃止するときには送配電会社と事前に相談することが必要になります。供給力の急な喪失を防ぐための義務です。
電力会社(小売)
正当な理由なく1年以上事業を休むと登録を取り消される場合があります。実体のない登録の整理が進みますが、事業再開を予定している会社にとっては注意が必要です。
太陽光発電の事業者
設備の安全チェックが必要になり、手続きが増えます。事故防止のためには不可欠ですが、中小事業者にとっては負担増の側面もあります。手続きの簡素化・デジタル化が課題です。
電力の需給を調整する公的機関
送電線整備への資金貸付など、役割が大きく広がります。実質的に、電力インフラ投資の金融機能を担う存在になります。その運営の透明性が今後の焦点です。
電力取引市場を運営する事業者
国の指定・監督を受ける仕組みになります。市場の信頼性が高まる一方、具体的な監督基準はこれから定まる部分が多く残されています。
太陽光パネルの製造会社・工事会社
事故の原因を調べるときに協力を求められる場合があります。これまで曖昧だった責任の所在が追跡可能になり、粗悪な製品・工事の抑止につながります。
日本の電力制度は、どう変わってきたか
電力自由化の始まり
発電部門への新規参入が段階的に認められ、地域独占だった電力市場に競争原理が導入されていきます。
東日本大震災と電力危機
大規模停電と計画停電を経験し、電力の広域融通の重要性が痛感されます。地域をまたいで電気を送る能力の不足が、はじめて国民的な問題として認識されました。
電力小売の全面自由化
家庭も電力会社を選べるようになり、多数の小売電気事業者が参入。一方で、実体の乏しい事業者や撤退する事業者の問題も生まれました。今回の「休眠事業者の登録取消」は、この時期の残課題への対応でもあります。
燃料価格高騰と需給逼迫
海外情勢による燃料価格の乱高下、需給逼迫警報の発令。エネルギー安全保障が現実の政策課題として浮上します。
AI・データセンター需要の顕在化
長らく減少すると見込まれていた電力需要が、AI・半導体・データセンターによって増加に転じる見通しへ。前提が反転しました。
電気事業法改正が成立
送電網・大型電源への融資制度、市場の国による指定・監督、太陽光の事前安全確認——需要増の時代に備えるための制度が整いました。
よくある質問
まとめ:土台のない成長戦略はない
AI立国。半導体復権。データセンター誘致。日本の成長戦略を語る言葉は、この数年で一気に華やかになりました。しかし、そのすべてに共通する前提が「電気が十分にあり、必要な場所へ届くこと」です。
電気事業法の改正は、地味です。送電線への融資、市場の監督、架台の安全確認——どれも選挙の争点にはなりません。しかし、この地味な土台がなければ、華やかな成長戦略はすべて絵に描いた餅になります。
チームみらいがこの法案に賛成したのは、テクノロジーを語る政党として、技術の華やかな部分だけでなく、それを支えるインフラの地味な部分まで引き受けるという姿勢の表れだと言えるでしょう。
✅ 日本の電力の弱点は「発電できないこと」ではなく「運べないこと」
✅ 広域送電線・大型電源の整備に、公的機関が資金を貸す仕組みが新設
✅ 地域間の電力取引で生まれた利益を、送電線整備に再投資する循環をつくる
✅ 1年以上休眠している小売電気事業者の登録を取り消せるように
✅ 将来の電気・調整用の電気を扱う市場を、国が指定・監督
✅ 太陽光の架台などを、工事前に専門機関が安全確認
✅ 背景にはAI・データセンター・半導体による電力需要の反転
✅ 最大の論点は「整備費用の電気代への上乗せ」——正面から向き合うべき課題
✅ チームみらいは賛成。「AI立国の前提は電力」「再エネは送電線とセット」「安全なくして推進なし」という3つの論理に基づく
電気は、あって当たり前のものだと思われています。スイッチを押せばつく。だから誰も気にしない。しかしその当たり前は、数十年単位の投資判断と、地味な制度設計の積み重ねによって支えられています。その地味な部分にきちんと票を投じる政党があるかどうか——それが、10年後の日本の産業競争力を決めることになるのかもしれません。
参考・出典
- みらい議会「電気事業法の一部を改正する法律案」
https://gikai.team-mir.ai/bills/fe55b9e2-260f-4e9b-b558-d9782c0b7fd3 - 経済産業省「『電気事業法の一部を改正する法律案』が閣議決定されました」
- 経済産業省「電気事業法の一部を改正する法律案の概要」「同 要綱」
- 資源エネルギー庁「電気事業制度について」
- 衆議院「議案の経過情報」
※本記事はチームみらいの非公式応援サイトによる解説です。法案の正確な内容は必ず一次資料をご確認ください。内容はみらい議会の掲載情報に基づいています。なお、みらい議会側の当該ページは有識者レビュー中であり、今後内容が更新される可能性があります。