与えるものと、求めるもの。
ひとつの法案に、両方が入っている。

出産にかかるお金を、窓口で払わなくてよくなる。子どもの国民健康保険料が高校生年代まで安くなる。株の利益がある高齢者にも応分の負担を求める——ここまでは、多くの人が歓迎する内容でしょう。しかし同じ法案には、市販薬と同じ成分の処方薬に4分の1の追加負担を求めるという項目も入っています。そして726件という記録的な数の意見が寄せられ、その最多を占めたのは——がんや難病で治療を続ける人たちの、生きるか死ぬかの訴えでした。

726
寄せられた意見
0
出産の窓口負担
1,100品目
追加負担の対象薬
304
AIインタビュー回答者

2026年3月13日、「健康保険法等の一部を改正する法律案」が成立しました。日本の医療保険制度を、5つの方向から同時に手直しする大きな改正です。

チームみらいはこの法案に「賛成」の立場を表明しました。

ただし、この法案は単純に「良い改正」と呼べるものではありません。負担が軽くなる人と、重くなる人が、同じ法案のなかに同居しているからです。本記事では、5つの柱を一つずつ丁寧に解き、726件の声が何を訴えたのかを紹介し、そのうえでチームみらいの判断をどう評価すべきかを考えます。

この記事でわかること

改正の5つの柱(軽くなる3つ・重くなる2つ)/出産費用がゼロになる仕組み/OTC類似薬の追加負担とは/高額療養費の見直しが意味すること/726件の意見の内訳と患者の声/意見が分かれる3つの論点/チームみらいが賛成した理由と残された宿題/よくある質問

まず結論:この法案は何を決めたのか

📋 法案データ
正式名称健康保険法等の一部を改正する法律案
所管厚生労働省
法案の種類内閣提出法案(閣法)
成立日2026年3月13日
ひとことで言うと医療保険のルールを見直して、出産費用をゼロにし、薬や医療費の負担の仕組みを変える法案
チームみらいの賛否✓ 賛成

審議のステータス

法案提出
衆議院審議
参議院審議
法案成立

出典:みらい議会(gikai.team-mir.ai)/厚生労働省 法案資料

改正の5つの柱——軽くなる人、重くなる人

✓ 負担が軽くなる

① 出産にかかる費用の自己負担がゼロになる

現在、出産にかかる費用は全額をいったん自己負担し、あとから出産育児一時金が支給される仕組みです。今回の改正では、健康保険から病院に直接費用を支払う形にすることで、出産する人が窓口でお金を払わなくて済むようになります

✗ 負担が重くなる

② 市販薬と同じ成分の処方薬で追加の負担が必要になる

市販薬と同じ成分の処方薬について、薬代の4分の1を追加で負担する仕組みを作ります。対象は約1,100品目。保湿剤や花粉症の薬などが該当します。

△ 配慮の明文化

③ 高額な医療費の自己負担を決めるとき、長期治療者への影響を考えることを法律に書く

高額な医療費の自己負担上限額の引き上げは、別のルール(政令)で決まる予定です。この法案では、そのルールを決めるときに「長く治療を続ける人の暮らしへの影響」を考えることを法律に書き込みます

✗ 負担が重くなる(高所得層)

④ 75歳以上の人の保険料などに株の利益が反映される

75歳以上の医療保険料などを決めるときに、株の配当や売却益なども含めて計算します。これまでは申告しなければ反映されず、不公平が生じていました。

✓ 負担が軽くなる

⑤ 子育て世帯の国民健康保険料が安くなる

こどもの保険料を半額にする対象を、未就学児から高校生年代まで拡大します。子どもが多い世帯ほど保険料が高くなるという構造的な問題への対応です。

出産費用ゼロ——何がどう変わるのか

この改正のなかで、最も多くの人が歓迎するであろう内容です。しかし「ゼロになる」の意味を正確に理解しておく必要があります。

❌ これまで:立て替えてから受け取る
正常な出産には健康保険が使えません

→ 出産費用は全額を自己負担で支払う。
→ あとから出産育児一時金が支給される。
→ つまり、まとまった現金をいったん用意する必要がある
→ 費用は医療機関によって差があり、一時金だけでは足りないこともある
✅ これから:窓口で払わなくてよい
健康保険から病院に直接費用を支払う形に変更。

→ 出産する人は窓口でお金を払わなくて済む
→ 立て替えのための現金を用意する必要がなくなる。
→ 医療機関ごとの費用差による「不足分」の心配が解消される。
【用語解説】なぜ出産に健康保険が使えなかったのか
健康保険は原則として「病気やけがの治療」に適用されます。正常な出産は病気ではないため、保険の対象外とされてきました。その代わりに設けられたのが出産育児一時金という現金給付です。

しかしこの仕組みには問題がありました。①いったん全額を立て替える必要がある(数十万円の現金が要る)、②費用が医療機関によって大きく異なるため一時金で足りるとは限らない、③施設によっては差額が数十万円に及ぶこともある——。

「子どもを産みたいのに、お金の心配で踏み切れない」という状況を制度がつくり出していた、とも言えます。

少子化対策として、これまで数多くの給付金や手当が創設されてきました。しかし「産むときに、その場でお金を払わなくていい」という変更は、給付額を増やすこと以上に心理的なハードルを下げる効果があります。数十万円を用意できるかどうかは、若い世帯にとって決して小さな問題ではないからです。

OTC類似薬の追加負担——この法案の最大の争点

一方で、負担が増える側の中心がこちらです。

【用語解説】OTC類似薬とは
OTCとは「Over The Counter」の略で、薬局のカウンター越しに買える市販薬のことです。OTC類似薬とは、市販薬と同じ有効成分を含んでいるのに、医師の処方箋によって保険適用で受け取っている薬を指します。

代表例は、保湿剤(ヒルドイド等)、花粉症の薬(フェキソフェナジン等)、解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン等)など。今回の改正では、約1,100品目について薬代の4分の1を追加負担することになります。

なぜ追加負担を求めるのか

理屈はこうです。薬局で誰でも買える薬を、わざわざ医療機関を受診して保険で受け取れば、その分の医療費(診察料+薬代の保険給付)が公費と保険料から支出されます。同じ成分の薬なのに、受け取り方によって社会の負担が大きく変わる。この不均衡を是正しよう、という発想です。

しかし、現場からは重要な反論がある

みらい議会に寄せられた医学生の意見は、この論理の弱点を突いています。

成分 医療用医薬品 市販薬(Amazon価格)
アセトアミノフェン
解熱鎮痛剤・300mg
約7円/錠 約17円
フェキソフェナジン
花粉症の薬
約10.8円 約15.5円

出典:みらい議会に寄せられた医学生の意見より。市販薬はAmazon価格(最も安い水準)であり、薬局で買えばこの数倍になる場合があるとの指摘。

この数字が示す構造的なねじれ。「市販薬で買えるなら市販薬で買ってください」という政策メッセージは、市販薬のほうが安いか、せめて同程度であることを前提にしています。しかし実際には、市販薬のほうが単価が高いのです。しかも、これはAmazonという最安値水準での比較であり、薬局店頭ではさらに高くなり得ます。

つまり患者から見れば、「保険で受け取ると4分の1追加負担」「市販薬で買うともっと高い」という板挟みになりかねません。制度が意図する行動変容が、価格の実態と噛み合っていない可能性があります。

それでも「セルフメディケーション」に期待する声も多い

公平を期すために書いておくと、このトピックについては期待の声のほうが多数派でした。34件のうち期待23件、懸念11件です。

「軽度や一時的なもの、副作用の少ない薬はなるべく薬局で手軽に買いたい。薬剤師対応で十分と思う。慢性病で医療費が多くかかる場合は保険外のものもあるので、医療費控除の額を上げて対応してほしい。」

— 患者

「極端な話、OTC類似薬はOTCと同等の薬価設定を目指し、そこに診察料を上乗せする。OTCを自己判断で(薬剤師等に相談して)購入するか、追加費用を払って医師の診察を受けたうえで購入するかの違いにするのが公平なのではないでしょうか。OTCの需要が増えれば、OTC市場の競争促進、価格抑制にも繋がるのではないでしょうか?」

— 薬剤師

薬剤師のこの提案は、示唆に富んでいます。「追加負担を課す」のではなく「薬価そのものを揃えて、診察料の分だけ差が出るようにする」——制度設計として、より筋が通っているようにも見えます。市販薬市場の競争が促されれば、価格も下がる可能性がある。今回の改正では採用されませんでしたが、次の見直しで検討する価値のある視点でしょう。

726件の意見——最多は、がん・難病患者の声だった

みらい議会には、この法案について304人へのAIインタビューから50件のトピックが抽出され、726件という記録的な数の意見が寄せられました。

50抽出されたトピック数
726寄せられた意見の数
304AIインタビュー回答者
54最多トピックの当事者数

最多トピック「長期治療患者の生活困窮が十分に検討されていない」(65件)

65件の内訳
懸念 63(期待 2)
回答者の属性:当事者54名/事業者4名/専門家3名/市民4名。当事者の比率が突出しています。
この内訳には、重い意味があります。65件のうち54件が「当事者」——つまり実際にがんや難病で治療を続けている人、あるいはその家族からの声です。他のトピックでは市民の比率が高いなか、このトピックだけは当事者が圧倒的多数を占めました。

それは、この問題が抽象的な制度論ではなく、その人の生死に直結する現実だからです。

「我が家は会社員の夫、専業主婦の自分、未就学児2人の家族構成で、所謂、所得制限世帯です。未就学児は2人ともが発達障害があり、児童発達支援に通っています。所得制限のため特児等は支給されず生活は余裕があるとは言えません。この状態で、夫もしくは私が病気や怪我により長期間の入院や治療が必要な状況になれば、毎月の医療費が払えずに治療を断念せざるを得ないと危惧しています。」

— 所得制限世帯の主婦

「抗がん剤や、薬自体が高額なため、もし今後転移して再度手術となったときに、幼い子を残し治療を諦める(緩和ケアに切り替える)ことになるのではないかといった不安です。」

— AYA世代の癌患者

「癌にまつわる医療費は、直接的な治療だけでなく、経過観察や後遺症に対する医療等様々に費用がかかる。入院手術以外の費用がずっと続くのが癌を患うというのが実態。なので、多数回該当にはならずとも、一定の医療費が生きている間ずっと費用がかかり、家計に与えるダメージはトータルで大きい。そういった面で、今回の上限額の引き上げはかなり厳しい。」

— がん患者
【用語解説】高額療養費制度とは
1か月の医療費の自己負担が一定額を超えたとき、超えた分が払い戻される制度です。日本の医療保険の最後の安全網と言えます。

この上限額が引き上げられるということは、患者が自分で払う金額の天井が上がるということです。健康な人には他人事に見えますが、毎月上限まで支払い続けている患者にとっては、月々の家計に直接効いてきます。

【用語解説】AYA世代とは
Adolescent and Young Adult——思春期・若年成人(おおむね15〜39歳)を指します。この世代のがん患者は、就労・結婚・出産・育児といったライフイベントと治療が重なるため、経済的・社会的な困難が特に大きいことが知られています。

この法案が「配慮を法律に書いた」意味

ここで、改正の柱③に戻ります。高額療養費の上限額引き上げは、この法案そのものではなく、別の政令で決まります。この法案が書き込んだのは、「そのルールを決めるときは、長く治療を続ける人の暮らしへの影響を考えること」という一文です。

⚠️ この一文の限界
「影響を考える」という訓示的な規定にすぎません。

具体的にどう配慮するかは、これから決まります。
→ 「考えたうえで、やはり引き上げます」という結論もあり得ます。
→ 患者の不安を直接解消するものではありません。
✅ それでも意味がある理由
法律に書かれた以上、無視できないからです。

→ 政令を決める過程で、この規定が検討の根拠になります。
→ 配慮が不十分なら、法律違反ではないかと国会で追及できる
→ 患者団体が制度の設計過程に発言する足場になります。

意見が分かれる3つの論点

論点 内容
① OTC類似薬の追加負担で受診控えが起きないか 追加負担で医師の診察を受けずに市販薬で済ませる人が増え、症状が悪化するリスクが指摘されています。軽症のセルフケアは望ましいものの、市販薬で対処し続けた結果、重い病気の発見が遅れる危険は現実に存在します。
② 高額療養費の見直しで、影響を受ける人への配慮は十分か 法律には「長く治療を続けている人の家計への影響を考える」と書かれていますが、具体的にどう配慮するかはこれから決まります。がんや難病で治療を続けている人が安心して医療を受け続けられるかが問われています。726件の意見のうち最多がこの懸念でした。
③ 出産の保険適用で医療機関のサービスに差がなくなるのでは 国が費用の標準額を決めることで、医療機関ごとのサービスの違いがなくなり、選択肢が減るとの指摘があります。無痛分娩、個室、食事、産後ケアなど、これまで施設ごとに多様だったサービスが画一化されないか、という懸念です。

チームみらいはなぜ「賛成」を選んだのか

みらい議会における立場
✓ 賛成

チームみらいは、この健康保険法改正案に賛成の立場を表明しました。出産費用の窓口負担ゼロと子育て世帯の保険料軽減という前進を評価し、同時に、制度を持続可能にするための負担の見直しを受け入れるという判断です。ただしこの賛成は、患者の懸念を軽んじるものではなく、政令段階での配慮を求め続けることとセットで理解されるべきものです。

① 出産費用ゼロは決定的な前進

子育て支援を最重要政策に掲げる政党として、「産むときにお金の心配をしなくていい」という変化は譲れない成果です。給付の増額より心理的効果が大きい。

② 負担の公平性を回復する

株の利益がある75歳以上に応分の負担を求め、子どもが多い世帯の保険料を下げる。年齢ではなく負担能力で見るという原則への一歩です。

③ 制度の持続なくして給付なし

医療費は年々増え続けています。見直しを拒み続ければ、いずれ制度そのものが維持できなくなり、最も困る人が最も損をします。

「年齢」ではなく「負担能力」で見るという転換

この法案でとくに注目すべきは、75歳以上の保険料に株の配当や売却益を反映させるという部分です。

日本の社会保障は長らく「高齢者=弱者」という前提で設計されてきました。しかし現実には、金融資産を多く持つ高齢者もいれば、資産のない現役世代もいます。年齢という属性だけで負担を決める仕組みは、公平性の観点からすでに限界を迎えています。

これまでは、株の利益があっても申告しなければ保険料に反映されませんでした。これは制度の穴です。今回の改正は、その穴を塞ぐものと位置づけられます。

チームみらいが一貫して主張してきたのは、世代間の対立をあおるのではなく、負担能力に応じた公平な仕組みをつくるという方向性です。同時に子どもの保険料軽減を高校生年代まで広げることは、この思想の両輪をなしています。

賛成したうえで、残された3つの宿題

この法案への賛成は、すべてが解決したという意味ではまったくありません。むしろ、賛成したからこそ追及すべき宿題が明確になります。

高額療養費の政令をどう設計するか。「長期治療者への影響を考える」という条文を、実効性のある配慮として具体化できるか。多数回該当の要件緩和、疾病特性を踏まえた区分など、技術的な選択肢は存在します。
OTC類似薬の価格構造を是正できるか。市販薬のほうが高いという現状のままでは、政策が意図する行動変容は起きません。薬剤師が提案した「薬価を揃えて診察料の差にする」という設計は検討に値します。
受診控えの実態を測定できるか。追加負担の導入後、対象疾患の重症化率がどう変化したかを追跡し、悪影響が確認されれば見直す——この検証サイクルを制度に組み込めるかが問われます。

726件を公開したことの意味

忘れてはならないのは、これらの厳しい患者の声を、チームみらい自身が集めて公開しているという事実です。

「幼い子を残し治療を諦めることになるのではないか」——賛成した法案に対するこの訴えを、自分たちのサイトに載せる。都合の悪い声を隠さない。賛成という結論と、その結論に反対する声の公開を、同時に成立させているという点に、この政党の姿勢が表れています。

従来の政治であれば、賛成した法案の問題点は与党なら語らず、野党なら反対の材料にするだけでした。「賛成する。ただし、この声は記録に残す」という第三の道が、ここでは選ばれています。

この改正で、誰の何が変わるのか

🤰
妊婦や出産を控えた家庭

出産の自己負担がゼロになります。数十万円を立て替える必要がなくなり、医療機関ごとの費用差による不足の心配も解消されます。この改正の最大の受益者です。

💊
保湿剤や花粉症の薬を処方されている人

薬代の4分の1が追加負担になります。対象は約1,100品目。アトピー性皮膚炎で保湿剤を継続的に使う人、毎年花粉症の薬を処方されている人などが直接影響を受けます。

🎗️
がんや難病で長く治療を続けている人

自己負担の見直しについて、長く治療を続けている人への影響を考えることが法律に書かれます。ただし具体的な配慮の中身は政令でこれから決まります。726件の意見のうち最多を占めたのが、この層の切実な懸念でした。

📈
75歳以上で株の配当などがある人

保険料に金融所得が反映されます。これまで申告しなければ反映されなかった不公平が是正されます。負担能力のある人に応分の負担を求める方向への転換です。

👨‍👩‍👧‍👦
国民健康保険に加入し、こどもがいる世帯

保険料の軽減が高校生年代まで広がります。これまで未就学児が対象だった半額措置が拡大され、子どもが多い世帯ほど保険料が高くなるという構造への対応が進みます。

よくある質問

出産費用が「ゼロ」とは、本当に一円も払わなくていいのですか?
この改正の趣旨は、健康保険から病院へ直接費用を支払う形にすることで、出産する人が窓口でお金を払わなくて済むようにするというものです。これまでの「全額を立て替えてから一時金を受け取る」方式が解消されます。ただし、標準的な費用を超える付加的なサービス(個室料、特別な食事、無痛分娩の扱いなど)がどう位置づけられるかは、制度の詳細設計によります。「標準的な出産にかかる費用について、窓口での支払いが不要になる」と理解するのが正確です。
OTC類似薬とは何ですか?どの薬が対象になりますか?
市販薬と同じ有効成分を含む処方薬のことです。薬局で誰でも買える薬を、医療機関を受診して保険で受け取っているケースが対象になります。約1,100品目が指定される予定で、保湿剤や花粉症の薬などが代表例として挙げられています。これらについて、薬代の4分の1を追加で負担することになります。
追加負担を避けるために市販薬を買えば、安く済むのですか?
必ずしもそうとは限りません。みらい議会に寄せられた医学生の指摘によれば、アセトアミノフェンは医療用が約7円/錠に対し市販薬は約17円、フェキソフェナジンは医療用約10.8円に対し市販薬約15.5円です。しかもこれはAmazonという最安値水準の比較で、薬局店頭ではさらに高くなり得ます。市販薬のほうが単価が高いという現実があり、制度が意図する行動変容と価格の実態が噛み合っていない可能性があります。
高額療養費の上限額は、この法案で上がるのですか?
いいえ。上限額の引き上げ自体は、この法案ではなく別のルール(政令)で決まる予定です。この法案が定めたのは、「そのルールを決めるときは、長く治療を続ける人の暮らしへの影響を考えること」を法律に書き込むという部分です。訓示的な規定であり、具体的な配慮の中身はこれから決まります。患者団体や国会が、政令の設計過程に対して発言する足場が法律上できたと理解するのが正確です。
なぜ75歳以上の株の利益を保険料に反映させるのですか?
これまでは株などの利益がある75歳以上の人でも、申告しなければ保険料などに反映されませんでした。同じ収入があっても、その形態によって保険料が変わるという不公平が生じていたのです。この改正は、年齢という属性だけでなく実際の負担能力に応じて公平に負担してもらうという方向への是正です。同時に子どもの保険料を軽減する措置とセットになっており、世代内・世代間の公平を同時に追求する設計になっています。
受診控えが起きて、病気の発見が遅れるのではないですか?
これは正当な懸念であり、みらい議会も論点として明示しています。追加負担で医師の診察を受けずに市販薬で済ませる人が増え、症状が悪化するリスクは現実に存在します。たとえば、単なる花粉症だと思って市販薬を飲み続けた結果、別の疾患の発見が遅れるといったケースです。制度導入後に対象疾患の重症化率を追跡し、悪影響が確認されれば見直す——この検証の仕組みを組み込めるかどうかが、この改正の成否を分けます。
出産の保険適用で、産院のサービスが画一化しませんか?
この懸念も論点として挙げられています。国が費用の標準額を決めることで、医療機関ごとのサービスの違いがなくなり、選択肢が減るという指摘です。日本の産科医療は、施設ごとに食事、個室、産後ケア、無痛分娩の有無など多様なサービスを提供してきました。標準化がこの多様性を損なわないよう、標準の範囲と、それを超える付加サービスの扱いをどう線引きするかが制度設計の焦点になります。
なぜ良い面と悪い面が同じ法案に入っているのですか?
医療保険制度の改正は、給付の充実と財源の確保をセットで行うのが通例だからです。出産費用の負担ゼロも、子どもの保険料軽減も、財源なしには実現できません。その財源を、OTC類似薬の適正化と金融所得の反映で確保するという構造になっています。

この「抱き合わせ」は批判されることもありますが、給付だけを増やして財源を語らない改正のほうが、長期的には制度を壊します。ただし、負担が集中する層(長期治療患者)への配慮が十分かは、別途厳しく検証されるべきです。

まとめ:誰かの負担で、誰かの安心が成り立っている

この法案は、社会保障というものの本質を、これ以上ないほど率直に示しています。財源は有限であり、誰かの負担を軽くするには、どこかで重くしなければならない。

出産の窓口負担がゼロになることは、まぎれもない前進です。これから子どもを持とうとする世帯にとって、経済的にも心理的にも大きな意味を持ちます。子どもの保険料軽減が高校生年代まで広がることも同様です。

しかしその同じ法案が、保湿剤を使い続けるアトピーの患者に、花粉症の薬を必要とする人に、そして毎月上限まで医療費を払い続けているがん患者に、追加の負担を求めています。

726件の意見のうち、最も多くを占めたのは彼らの声でした。「幼い子を残し治療を諦めることになるのではないか」——この言葉の重さの前で、「制度の持続可能性のために」という論理は、簡単には響きません。

この記事のまとめ

✅ 出産にかかる費用の自己負担がゼロに(保険から病院へ直接支払う方式へ)
✅ 市販薬と同じ成分の処方薬(約1,100品目)は薬代の4分の1が追加負担に
✅ 高額療養費の見直しでは「長期治療者への影響を考える」ことを法律に明記
✅ 75歳以上の保険料に株の配当・売却益を反映(申告漏れによる不公平を是正)
✅ こどもの国民健康保険料の半額対象を、未就学児から高校生年代まで拡大
✅ 726件の意見が寄せられ、最多トピックは長期治療患者の生活困窮(懸念63件/当事者54名)
✅ 市販薬のほうが医療用より単価が高いという構造的なねじれが指摘されている
✅ チームみらいは賛成。「出産費用ゼロは決定的な前進」「負担能力に応じた公平性の回復」「制度の持続なくして給付なし」という3つの論理に基づく
✅ 賛成した法案への厳しい患者の声を、隠さず公開している点に姿勢が表れている

だからこそ、この法案の評価は成立した時点では確定しません。高額療養費の政令がどう設計されるか。OTC類似薬の価格のねじれが是正されるか。受診控えが実際に起きていないか。これらが確かめられて初めて、この賛成が正しかったかどうかが決まります。

制度を持続させることと、いま苦しんでいる人を守ること。この二つは、しばしば対立するように見えます。しかし本当は、制度が壊れれば最も困るのは、いま苦しんでいる人です。両立させる道を探し続けること以外に、答えはないのだと思います。

参考・出典

  • みらい議会「健康保険法等の一部を改正する法律案」
    https://gikai.team-mir.ai/bills/f04d6d34-dc2d-48de-8a87-70f4beaf863a
  • 厚生労働省「健康保険法等の一部を改正する法律案の概要」「同 要綱」
  • 厚生労働省「第221回国会(令和8年特別会)提出法律案」
  • 厚生労働省「第211回社会保障審議会医療保険部会」

※本記事はチームみらいの非公式応援サイトによる解説です。法案の正確な内容は必ず一次資料をご確認ください。数値・引用はみらい議会の掲載情報に基づいています。薬価の比較は、みらい議会に寄せられた個人の意見として示された数値であり、公的統計ではありません。AIインタビューの回答者は無作為抽出ではなく、意見の内訳を国民全体の世論として読むことはできません。なお、みらい議会側の当該ページは有識者レビュー中であり、今後内容が更新される可能性があります。