国を守りたい人がいても、
手続きが止めていた。
ふだんは役所や会社で働き、災害や有事のときに呼ばれて自衛隊の任務にあたる——それが予備自衛官です。2024年の能登半島地震でも、医療や生活の支援にあたりました。しかし、その定員は約70%しか埋まっていません。そして退職した自衛官が志願しない理由を聞くと、約7割が「仕事との両立への不安」を挙げます。意欲の問題ではありません。制度の摩擦が、人を遠ざけていたのです。
予備自衛官の充足率
両立不安を理由に挙げる人
必要な許可手続き
予備自衛官の訓練日数
2026年4月3日、「予備自衛官等の職務の円滑な遂行を図るための国家公務員及び地方公務員の兼業の特例に関する法律案」が成立しました。長い名前ですが、内容は明快です。公務員が予備自衛官になりやすくするための法律です。
チームみらいはこの法案に「賛成」の立場を表明しました。
この法案が興味深いのは、防衛力の話をしているのに、中身は事務手続きの話だという点です。装備でも予算でもなく、「許可を2回から1回に減らす」「訓練中に給料が出るようにする」——それだけで人が増えるのか。答えは、おそらくイエスです。
予備自衛官とは何をする人か/なぜ定員が埋まらないのか/「2回の許可」という摩擦/訓練中の給与保障が意味すること/能登半島地震での実績/意見が分かれる5つの論点/訓練5日は足りるのか/チームみらいが賛成した理由/よくある質問
まず結論:この法案は何を決めたのか
審議のステータス
出典:みらい議会(gikai.team-mir.ai)/防衛省 資料
埋まらない定員
予備自衛官は定員の約70%しか集まっていません。
装備や予算ではなく、人が足りていない。
出典:みらい議会 法案解説ページ
みらい議会の説明を引きます。「ふだんは会社や役所で働き、災害や有事の時に呼び出されて自衛隊の任務にあたる人たちです。年間5日の訓練に参加します。」
常勤の自衛官とは別に、普段は民間や行政で働きながら、必要なときだけ招集されるという仕組みです。多くの国が同様の予備役制度を持っています。
【なぜ予備戦力が必要なのか】
常備の人員だけで、あらゆる事態に対応できる規模を維持しようとすれば、平時のコストが膨大になります。だからどの国も「普段は少なく、いざというとき増やせる」設計を採ります。
そして日本の場合、この「いざというとき」の筆頭は大規模災害です。実際、2024年の能登半島地震では予備自衛官が医療や生活の支援にあたりました。
なぜ人が集まらないのか
ここが、この法案のすべてです。
「仕事との両立への不安」を挙げた割合
出典:みらい議会 法案解説ページ
この数字が示しているのは、きわめて重要な事実です。志願しない理由は「意欲がない」ことでも「危険だから」でもありません。本業との調整がつかない——それだけです。
❌ これまでの障壁
① 許可が2回必要公務員が予備自衛官を兼ねるには、2回の許可を得る必要がありました。
② 訓練は有給休暇を使う
年5日の訓練に参加するため、自分の有給休暇を消費する必要がありました。
③ 招集中の身分が不安定
有事に招集されたとき、職場を休めるのかが法律上明確ではありませんでした。
✅ 改正後
① 許可は1回にまとまる手続きが1回で済むようになります。
② 訓練中も給料が出る
訓練に参加している間も職場の給料が支払われ、有給休暇を使う必要がなくなります。
③ 招集中は職務を休める
有事で招集された間は、職場の仕事を休んでよいと法律で認められます。
年5日の訓練。日本の平均的な有給休暇取得日数を考えれば、年間の有給のかなりの部分が訓練で消えることになります。家族旅行にも、子どもの行事にも、体調不良のときにも使えない。
つまりこれまでの制度は、「国のために働きたいなら、あなたの休暇を差し出せ」と要求していたに等しい。志願者が集まらないのは、当然と言えば当然です。
訓練中の給与保障は、「国防への貢献を、個人の犠牲で賄わせない」という原則への転換です。
改正の4つの柱
予備自衛官になるための許可が1回で済む
公務員が予備自衛官を兼ねるための許可が1回にまとまります。これまでは2回の許可が必要でした。手続きの重複を解消する、純粋な事務簡素化です。
訓練中も職場の給料が減らない
訓練に参加している間も職場の給料が支払われます。有給休暇を使う必要がなくなります。この法案で最も実質的な効果を持つ変更です。
招集中は職場の仕事を休めるようになる
災害や戦争などの緊急事態(有事)で招集された間は、職場の仕事を休んでよいと法律で認められます。身分上の不安定さが解消されます。
予備自衛官の役割を広く知ってもらう取り組みを進める
国が予備自衛官の仕事の大切さを広く伝えることが法律で定められます。制度の存在自体が知られていないことも、志願者不足の一因です。
能登半島地震が示したこと
この法案が急がれた背景には、具体的な経験があります。
みらい議会はこう記しています。「2024年の能登半島地震では予備自衛官が医療や生活の支援にあたりました。災害時にすぐ動ける人を増やすことが求められています。」
大規模災害では、常備の自衛官だけでは人手が足りません。しかも必要なのは戦闘能力ではなく、医療、給水、給食、入浴支援、物資輸送といった生活支援の能力です。
ここで予備自衛官が持つ民間での職業経験が生きます。医療従事者、調理師、整備士、輸送業——普段の仕事のスキルが、そのまま被災地で使える。常備自衛官にはない多様性が、予備自衛官の強みなのです。
予備自衛官の主な出番は、圧倒的に災害対応です。地震、豪雨、火山噴火——日本は世界有数の災害多発国であり、そのたびに人手が足りなくなります。
そして日本は人口減少局面にあります。常備の自衛官の確保すら年々難しくなるなか、「必要なときだけ動員できる人」を増やすことは、限られた人的資源を効率的に使うという発想でもあります。
軍事的な備えと災害への備えは、この分野では同じ人員基盤の上に成り立っています。
意見が分かれる5つの論点
この法案には、無視できない批判があります。とくに論点①は法案の根本に関わるものです。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| ① 公務員だけでなく民間企業にも仕組みが必要ではないのか | この法律の対象は公務員のみです。予備自衛官の多くは民間企業で働いており、効果が限られるとの指摘があります。最も本質的な批判です。 |
| ② 公務員が招集された場合に本来の業務は回るのか | 災害時には公務員自身も災害対応の仕事があります。予備自衛官の招集と重なった場合にどちらを優先するか、判断が難しくなるとの指摘があります。 |
| ③ 訓練日数が年間5日で十分な対応力を確保できるのか | 予備自衛官の訓練は年間5日です。アメリカの似た制度の約40日と比べて短く、人数が増えても対応力に課題が残るとの見方があります。 |
| ④ 人が集まらない根本的な理由に対処できているのか | 防衛省の調査では、自衛隊内での人間関係への不満も予備自衛官を志願しない理由に挙げられています。手続きを簡単にするだけでは解決しない問題があるとの指摘があります。 |
| ⑤ 消防団など他の制度と扱いが違ってもよいのか | 消防団員や水防団員など、似た仕組みで働く人には同じ特例がありません。予備自衛官だけに特例を認めることへの疑問もあります。 |
論点①:対象が公務員のみという限界
これが最大の弱点です。予備自衛官の多くは民間企業で働いています。その人たちには、この法律は適用されません。
⚠️ 民間企業の従業員はどうなるか
・訓練中の給与保障は企業の任意・招集中の休職も法律上の保障はない
・「予備自衛官をやっている」と言いにくい職場も
・中小企業では、5日抜けることの影響が大きい
→ 最も人数の多い層が、制度の外に置かれている
✅ なぜ公務員から始めたのか
・公務員なら国が使用者として直接ルールを決められる・民間に義務を課すには、企業側の負担の議論が必要
・まず公務員で実績を作り、次に民間へ広げる
→ みらい議会も、民間企業の予備自衛官について「今後民間向けの制度につながる可能性があります」と記している
この批判に対する擁護は、「国が自ら手本を示す」という論理です。
民間企業に「従業員が予備自衛官になるなら訓練中も給料を払え」と義務づけるなら、まず国と自治体が自分の職員に対してそれをやるのが筋です。自分がやっていないことを企業に求めるのは説得力を欠きます。
また、公務員は災害対応の当事者でもあり、予備自衛官としての経験が本業にも生きるという相乗効果も期待できます。
ただし——これが「公務員だけで終わり」なら、法案の効果は限定的です。民間向けの制度に接続する道筋が示されなければ、批判は正当なままです。次の一手があるかどうかが問われます。
論点③:訓練5日で足りるのか
出典:みらい議会 法案解説ページ。「予備自衛官の訓練は年間5日です。アメリカの似た制度の約40日と比べて短く、人数が増えても対応力に課題が残るとの見方があります」
8倍の差です。この差は、単に訓練量の問題ではありません。
訓練日数を増やせば、対応力は上がります。しかし本業との両立はさらに難しくなり、志願者が減ります。
訓練日数を減らせば、両立しやすくなります。しかしいざというときに使える能力が身につきません。
「人数」と「練度」のトレードオフです。そして今回の法案は、明確に「まず人数」を選びました。定員の70%しか埋まっていない現状では、まず頭数を確保するのが先だという判断です。
ただし、これは問題を先送りしただけとも言えます。人数が揃ったあと、練度をどう上げるのか。給与保障の仕組みができた今なら、訓練日数を増やしても両立できる余地が生まれたはずです。次のステップとして、訓練日数の見直しが議論されるべきでしょう。
論点⑤:消防団との整合性
この指摘も鋭いものです。消防団員や水防団員も、普段は別の仕事をしながら、災害時に出動する人たちです。仕組みとしては予備自衛官とよく似ています。
にもかかわらず、彼らには同じ特例がありません。なぜ予備自衛官だけなのか。
実際、消防団も深刻な団員不足に直面しており、その理由もやはり「本業との両立の困難さ」です。構造はまったく同じです。
消防団、水防団、予備自衛官、災害派遣医療チーム、民生委員——日本社会は、「普段は別の仕事をしながら、公共のために働く人」に多くを依存しています。
そして、そのすべてが同じ理由で人手不足に陥っています。共働きが標準になり、労働時間の管理が厳しくなり、地域のつながりが薄くなった社会で、「無償で、休暇を使って、公共のために働く」というモデルが限界を迎えているのです。
予備自衛官だけを特例扱いするのではなく、「公共のために本業を離れる人をどう支えるか」という共通の枠組みを作るべきではないか——この指摘は、防衛政策を超えた射程を持っています。
チームみらいはなぜ「賛成」を選んだのか
チームみらいは、この予備自衛官兼業特例法案に賛成の立場を表明しました。「意欲のある人が、手続きの摩擦で参加できていない」という状態は、制度設計の失敗です。同時に、対象が公務員のみである点、訓練日数の問題は、賛成後に追及すべき課題として残ります。
① 摩擦が意欲を殺している
志願しない理由の約7割が「仕事との両立への不安」。装備でも予算でもなく、手続きの設計が国防の穴を作っていたという事実は直視すべきです。
② 貢献を個人の犠牲で賄わない
訓練のために有給休暇を差し出せ、という制度は持続しません。公共への貢献に対価を保障するのは、当然の設計です。
③ 災害大国の人的基盤
能登半島地震でも予備自衛官が活動しました。人口減少下で「必要なときだけ動員できる人」を増やすことは、合理的な資源配分です。
「防衛費」ではなく「防衛の人」を議論する
日本の安全保障論議は、長らく金額の話に偏ってきました。GDP比何%か。装備を何機買うか。
しかし、装備は人が動かします。そして日本は人口減少局面にあり、常備自衛官の確保すら年々難しくなっています。どれだけ装備を買っても、動かす人がいなければ意味がありません。
チームみらいが一貫して主張してきたのは、「制度の詰まりを取り除くことで、既存の資源を活かす」という発想です。新しい予算を投じる前に、いま使えていない人的資源を掘り起こす。
定員の30%が空いている。志願しない理由の7割が手続きの問題。ここを直せば、追加予算をほとんど使わずに人が増える。——この費用対効果は、装備の調達と比べて桁違いに良いはずです。
① 充足率は上がったか。約70%という数字が、施行後1年、2年でどう変化するか。上がらなければ、原因は手続き以外にあったことになります。
② 民間向けの制度は動いたか。予備自衛官の多くは民間企業で働いています。公務員だけで終われば、この法案の効果は限定的です。民間への拡大が議論されるかを見る必要があります。
③ 訓練日数は見直されたか。年5日という水準は、米国の約40日と比べて明らかに短い。給与保障ができた今なら、日数を増やす余地が生まれたはずです。人数だけ増えて練度が伴わなければ、「頭数だけの予備戦力」になります。
この改正で、誰の何が変わるのか
国や地方の公務員
許可手続きが1回で済み、訓練中の給料も保障されます。さらに有事の招集中は職務を休むことが法律で認められます。予備自衛官になるハードルが実質的に下がります。
防衛省・自衛隊
予備自衛官の人数が増えることが期待されます。ただし公務員が対象であるため、増加幅は限定的になる可能性があります。効果の検証が必要です。
小規模な自治体
職員が招集された場合の代わりの人員確保が課題になります。職員数の少ない自治体では、1人が抜けることの影響が大きく、災害時には自治体自身の業務とも競合します。この点は現実的な懸念です。
民間企業で働く予備自衛官
この法律の対象外ですが、今後民間向けの制度につながる可能性があります。現時点では、訓練中の給与も招集中の休職も、企業の任意です。最も人数の多い層が制度の外にいる状態が続きます。
よくある質問
日本の場合、実際の出番として最も多いのは大規模災害への対応です。2024年の能登半島地震でも、医療や生活の支援にあたりました。
つまり、意欲がないわけでも、危険だから避けているわけでもありません。本業との調整がつかない——それが最大の障壁でした。この法案は、まさにその摩擦を取り除くものです。
とくに②は重いものでした。「国のために働きたいなら、あなたの休暇を差し出せ」と要求しているに等しい制度だったからです。
ただし、みらい議会は民間企業で働く予備自衛官について「今後民間向けの制度につながる可能性があります」と記しています。民間に義務を課す前に、まず国と自治体が自らの職員に対して実施する——という順序には一定の合理性がありますが、公務員だけで終われば批判は正当なままです。
とくに小規模な自治体では、職員が1人抜けることの影響が大きく、代替人員の確保が課題になります。制度上は招集に応じられるようになりましたが、実務上どう調整するかは各自治体の判断に委ねられます。
ここには「人数」と「練度」のトレードオフがあります。訓練を増やせば練度は上がるが、両立が難しくなって志願者が減る。減らせば両立しやすいが、能力が身につかない。
今回の法案は明確に「まず人数」を選びました。充足率70%の現状では妥当な判断ですが、給与保障ができた今なら訓練日数を増やす余地も生まれたはずで、次のステップとして議論されるべきでしょう。
ただし、約7割が「仕事との両立への不安」を挙げているという事実は動きません。最大の障壁を取り除くことには、確実に意味があります。それで足りるかどうかは、施行後の充足率で検証されるべきです。上がらなければ、別の原因に取り組む必要があります。
実際、消防団も深刻な団員不足に直面しており、その理由もやはり「本業との両立の困難さ」です。構造はまったく同じです。
この論点は、防衛政策を超えた問いを含んでいます。「普段は別の仕事をしながら公共のために働く人」全体をどう支えるか——消防団、水防団、災害派遣医療チーム、民生委員。すべてが同じ理由で人手不足に陥っており、共通の枠組みが必要かもしれません。
まとめ:意欲は、制度で殺される
「国を守りたい」「災害のときに役に立ちたい」——そう思う人は、確かに存在します。予備自衛官に志願しようと考えた元自衛官が、それだけ多くいるということが、そもそもの前提です。
しかし、その人たちの約7割が、最終的に諦めました。理由は「仕事との両立への不安」。許可が2回必要で、訓練には自分の有給休暇を使わなければならず、有事に呼ばれたとき職場を休めるかもわからない。
これは、意欲の問題ではありません。制度の設計が、意欲を殺していたのです。
✅ 公務員が予備自衛官を兼ねるための許可を2回から1回に
✅ 訓練中も職場の給料が支払われる(有給休暇を使う必要がなくなる)
✅ 有事の招集中は職場の仕事を休んでよいと法律で認められる
✅ 予備自衛官の役割を広く伝える取り組みを法律で規定
✅ 背景に、定員の約70%しか集まっていないという充足率の低さ
✅ 志願しない理由の約7割が「仕事との両立への不安」
✅ 2024年の能登半島地震では予備自衛官が医療・生活支援で活動
✅ 最大の弱点は対象が公務員のみで、多数派の民間企業勤務者が対象外
✅ 訓練は年5日。米国の約40日と8倍の差があり、練度に課題
✅ チームみらいは賛成。「摩擦が意欲を殺している」「貢献を個人の犠牲で賄わない」「災害大国の人的基盤」という3つの論理に基づく
安全保障の議論は、しばしば壮大なテーマになります。憲法をどうするか。防衛費を何%にするか。同盟をどう維持するか。
しかし現場では、「許可を2回取るのが面倒だから諦めた」という理由で、国を守る人が1人減っています。そういう小さな摩擦の集積が、定員の30%という穴になっています。
この法案は、その穴を、装備でも予算でもなく事務手続きの見直しで埋めようとしています。地味です。しかし、費用対効果という一点においては、おそらくどんな装備の調達よりも優れているでしょう。
あとは、この先に民間向けの制度が続くかどうかです。予備自衛官の多くは民間で働いています。公務員だけで終われば、この法案は「やった感」で終わります。次の一手があるかを、見届ける必要があります。
参考・出典
- みらい議会「予備自衛官等の職務の円滑な遂行を図るための国家公務員及び地方公務員の兼業の特例に関する法律案」
https://gikai.team-mir.ai/bills/38959e23-9f63-423e-962b-da9a375adf11 - 防衛省「予備自衛官等制度に関する意識調査等 最終事業報告書」
- 防衛省「人的基盤の強化について(関係閣僚会議基本方針概要)」
- 防衛省「防衛大臣記者会見」(2026年4月3日)
- 参議院「自衛隊の人的基盤をめぐる状況」
※本記事はチームみらいの非公式応援サイトによる解説です。法案の正確な内容は必ず一次資料をご確認ください。数値はみらい議会の掲載情報に基づいています。なお、みらい議会側の当該ページは有識者レビュー中であり、今後内容が更新される可能性があります。